クロノが海軍の全滅の報告を受けた30分後、緊急作戦会議が決行された。
偵察の情報によると、敵の戦力は今ではガルディアのほぼ二倍であると判明されている。そして、その戦力はこちらへとまっすぐに進んでいる。
……城を落とすには敵の戦力の何倍もの力が必要とされているが、敵の戦力はその法則に従っていない。
いや、そう見えないだけだ。敵は一瞬でこちらの海軍を消滅させる程の力を持っている。どんな兵器を使って来るか分からない。
そこで、その兵器の対策を考える中、クロノが一つの定案を出してみたのだが……
「い、いけません!陛下はガルディアの王なのですぞ!このような時に貴方が倒されてしまえば、それこそこの国の終りです!」
「大臣……、俺の力を信じてくれ。普通の兵士達ではあの力と戦う事は出来ない。」
「し、しかし……」
「おいおっさん!てめぇ、クロノが誰だか覚えてんのかよ?あのラヴォスを倒したんだせ。あんなヘナチョコ兵器にやられるような奴じゃねぇよ。」
と、マキが言う。
「き、貴様!陛下と呼ばんか陛下と!それに何だその口のきき型は……」
「いいんだ大臣。……それに、敵はあの兵器を一斉に使って来る事はない。」
「そ、それは何故でしょうか?」
「ゼナン海域での戦いでは、敵はあの兵器を使うタイミングを待っているように見えたんだ。わざと敵に自分を囲ませて、そして敵を混乱させて一気に殲滅。分かるか、この意味が?」
「………」
「パレポリは兵器の使用が制限されている。あの力を使えば、こっちの防衛ラインを一気に貫く事が出来た筈だ。」
「……でもクロノ、もしかして敵はこの城を落とす為にその兵器を温存してたのかもしれないわ。もしあの時よりも強力な物を使われたら……」
「いや、敵はこっちの海軍を突破する事の方が難しい事を知っている。兵器を思う存分使うなら、城を攻める為にとっておくよりも海軍を倒す為に使う方が効率的だ。」
「そ、そう……。」
立ち上がったルッカは、そう言うとゆっくりと席に座る。
「……よし、では俺達の軍はこの配置で行こう。マキ、ルッカ。君達に頼みがある。」
「………」
「君達には、この城の防衛を任せたい。……マキもルッカも軍人じゃ無い事は分かってる。特にマキはこの国の人間じゃ無い事も……。でも……それでもお願いしたい。」
「………」
にっこりと笑い、ルッカはクロノへと答える。
「何言ってんのよ、水臭いわね。当たり前でしょ?」
「……有難う、ルッカ。」
……しかし、マキは座ったまま、何も語ろうとはしない。ルッカが答えを出した後も、彼は黙ったまま座りこんだままだ。
じっと、彼の答えを待つクロノとルッカ。……そして、彼は口を開ける。
「……俺は自分の国とか、愛国心とか、そういうのには興味ねぇ。……だけどな、いきなり他人の領土に土足で上がりこんで、好き勝手やるような連中は気に入らねぇな。」
「……それじゃあ……」
「へへ、答える必要もねぇだろうが!」
親指を立てて、マキは答える。
……作戦会議が修了し、パレポリ軍との最後の戦いの準備が整えられた。
南から進軍するパレポリ軍へと向けて、軍を配置。城を守る役割を与えられる。
パレポリは南から進軍し、途中で軍を二手に分け、西と東から城を挟み撃ちにしようとする。しかし、ガルディアも軍を二つに分け、それらの進軍を防ぐ。
それぞれの戦闘は好調に進んではいたのだが、やはり気になる事があった。それは、ガルディアの軍をゆっくりと二つに分け、城の正面の守りを薄くしていっているようなのだ。
『……やっぱりそう来たか。』
軍の動きを見て、クロノはそう考える。
そして、その予想は的中した。
……城の正面の防衛をしていた兵士が見た物は、彼を震え上がらせた。
今まで見た事も無い異系の形をしたその生き物。いや、生き物と言える物なのかどうかも分からない。
全身がドロのように熔けており、球体状の目が見た物を凍らせる。腰の下からは無数の触手が、まるで足のようにその生物を前身させている。腕はとてつも無く大きく、木を数本も軽くなぎ倒してしまいそうだ。
激しく震えながらも、兵士達はその異系の生物へと突撃する!
「グオォォォ!!!」
しかし、怪物はその腕を振り回し、迫り来る兵士達をバラバラに砕く!
すると、後方からガルディアの弓兵隊が矢を放つ!異系の生物へと雨のように降り注がれる矢は、それの全身に刺し込まれていく!
「グ…グギィ!!」
まるで飛び付いた虫を振り払うかのように、その生物は刺さった矢を腕で払い、地面へと落とす。
多少の痛みで怒りを覚えたその生物は腕を前へと向け、体のエネルギーを集中させる。……すると、腕が微かに光ったと思ったら、そこから五つのエネルギー球体が、弓兵隊へと放たれた!
「う…うわぁぁぁ!!!」
エネルギー球体は地面に触れると同時に爆発し、一瞬の内に弓兵の殆どを消滅させる。
その力に恐れをなした兵士達は、震えながら怪物から逃げようとした。
が、
「ウゲォォ!!!」
怪物の目が一瞬赤く光り、大爆発を引き起こす!その衝撃に巻き込まれた兵士達は、後も残らずにバラバラにされてしまった。
……怪物の後ろを歩いていたパレポリ軍の兵士達の隊長は、その圧倒的な力に驚いていた。
「す、凄い……。こ、この力があれば…パレポリに永遠の栄光が訪れる!」
……更に前へと進んでいくと、もうガルディア城の城門はすぐそこにまで近くなっていた。
「フフフ……。この瞬間こそ、パレポリが力を握る時!世界にその力を示す時なのだ!……いけ、ミュータントゴーレム!ガルディア城を落とせ!」
剣を前へとかがけ、いざ侵入しようとする。
しかし、
「……そんな怪物の力を借りてでも、この城を手にしようとするのか?」
「な、何者だ!?」
何所からとも無く、声がする。辺りを見回すが、声の主は見つからない。
……しかし、城門の奥から、人の影が見える。その影は前へと進み、やがてその姿が見える。
虹色に輝く刀を手にした、若い剣士。
「き、貴様は……!」
「……俺の顔を知ってるのか。俺はガルディア王国国王、クロノ=ストランド=ガルディア!これ以上、先には進ませないぞ!」
刀を構えたクロノの力は、その場にいた全ての者達の全身にビリビリと伝わって来る。
「くっ……、ひるむな!突撃しろぉ!!」
巨大な怪物へと大声で命令する兵隊長。しかし、その怪物はクロノへと恐怖の感情を与える事は出来なかった。
……しかし、何かがひっかかる。
『あの怪物、何所かで見た事があるような………いや、今はそんな事を考えてる暇は無い!』
大きく跳び上がり、怪物の腹(のような所)を斜めに全力で切り込む!傷口から血や肉片が飛び散り、怪物は大きな唸り声を上げる!
すぐに着地し、怪物へと構えるクロノ。そして怪物は攻撃を与えた相手へと向く。
その瞬間、クロノは気付いた。怪物の傷口が異様な動きを見せている。
『傷が……回復してるのか?』
「グゲェェェ!!!」
腕を上げ、クロノへと大きく振り下ろす!クロノはそれをジャンプして避ける!
着地と同時に突撃、怪物の腹へと刀を刺し込む!
「これならっ!」
刃を上へと向け、そのままジャンプ!怪物の肉に深い切り傷を刻む!
「グギャオォォ!!!」
激痛の中、怪物は叫び狂う。
……しかし、怪物の触手が一瞬光ったのを、クロノは見た。次の瞬間、その触手がクロノの肌に触れると、激しい電撃が彼の全身を襲う!
「ぐわぁ!!」
ダメージを喰らってしまったが、クロノは何とかショックを振り払い、両足で着地する。
そして、クロノは腕へと集中する。
「目には目を!」
電撃が腕へと集まると、クロノはその腕を奴へと構え、その魔力を放出する!
激しい電撃が奴へと放たれ、全身に流れ込んでいく!
「ギャグワァァァ!!!」
電撃が怪物の全身を麻痺させ、動きを停止させる。
『今だ!』
再び怪物へと跳び上がり、鋭い一撃を与える!そしてその次の瞬間、クロノは怪物の回りを高速で回りながら、目にも止まらない一撃を次々に与えていく!
全身に傷が増え続ける中、クロノの最後の一太刀が奴の肉を切り、体を二つに裂ける!
大量の血と肉片を撒き散らしながら、怪物は大きな落を立てて倒れ、そして動かなくなった。
「はぁ……はぁ……」
「ふっ……、ミュータントゴーレムを倒すとはな……。」
奴等の切り札を倒し、これで何とかなると思ったクロノ。しかし、何かがおかしい。
敵の兵は、この怪物が倒されたと言うのに、全く引こうとしない。いや、まるでこれからこちらへと……
その瞬間、
「ぐっ!?」
突然、全身が何倍も重くなったような感覚がクロノを襲う。足の力が抜け、地面へと膝をついてしまう。
「な……何だ、これは……!?」
「ふふふ……、かかったな!」
兵士達はクロノの力が抜けたのを確認し、そのまま前身する。
「くっ……これは……」
「もう気付いたとは思うが、あのゴーレムは死ぬ直前に毒素を撒き散らすのだ。毒を受けた者は全身の力が抜け、まともに戦う事が出来ない体になる。」
「な……何だと……!」
刀を杖にし、何とか立ち上がるクロノ。しかし、やはり立っていられるのが限界。このままでは……
「さあ、これで貴様の最後だ!」
その言葉を合図に、怪物の後ろを歩いていた兵士およそ200人が、一斉にクロノへと突撃する!
迫り来る兵士達の叫び声を耳にしながら、クロノは全身に魔力を集中する。
体が黄色に輝き、魔力が集まっていく。……そしてクロノは、その力を解放する!
「喰らえぇ!!!」
クロノの全身から放たれたいかづちは、正面まで迫って来た兵士達を襲う!激しい電撃が流れる中、次々と兵士達は倒れていく。
今の一撃で、敵の数を凡そ半分程に減らせる事が出来たようだ。
「くっ……、ひ、怯むなぁ!」
残りの兵士達は、恐怖しながらもクロノへと突進する。
しかし、震える足で立ちながら、クロノは虹を構える。
兵士が二人同時に、クロノへと切りかかる。たとえ英雄でも、力が抜ければ恐れる事は無いと信じて。
……それは彼等の人生において一番大きな間違いであった。
二人の攻撃を同時に受け流し、そのまま腹へと切る!大量の血を流し、二人はそのまま柔らかい草の上へと倒れる。
しかし、その後もクロノの前には、彼を殺そうと迫る兵士達がいた。
……長い戦いだった。
まるで自分の命の事などどうでもいいかのように、次々と兵士達はクロノへと攻撃して来る。それを何とか凌ごうとするクロノだったが、無傷でこの戦いを終らせる事はやはり不可能であった。敵の剣が腕や足、腹や胸へと次々に傷を与えていく。
最後の兵士の喉へと刀を突き刺し、ゆっくりと抜く。力を失ったその兵士の体は、そのまま地面へと倒れていった。
同時に、クロノの手から虹が放れ、地面に突き刺さる。そして彼も、全ての力を使い果たし、刀の横に倒れる。
……もう、動く力も、刀を握る力も無い。もう、ここで眠ってしまいたい……。
……そして、彼の思考が閉じようとしたその瞬間、
「……へ、いいザマだな、小憎。」
『!!!』
この声……ほんの微かではあるが、何所かで聞いた事があると、クロノの記憶が彼へと囁く。
一体誰なのか、残り僅かとなった力を振り絞り、声のした方向へと顔を上げる。
そこでクロノが見たのは……
「お…お前は……!」
「ほう、俺の事を覚えてやがったか。」
「……ダルトン……!」